~ プロローグ ~
9月初旬。恒例の記者Oさんからの指令が届きました。
「今回は『石の蔵』さんに行ってください」
「石の蔵さんですか!? セレブなマダ~ムが集うと有名な」
「そうです」
「お料理出るんですか!?食べられるんですか!?」
「・・・舞い上がってないで、きちんと取材してきてくださいねっ!」
大谷石に囲まれたレストラン「石の蔵」ですごす、極上の時間
重厚な大谷石の壁が外界を遮断し、静寂を守っています。
日常を忘れ、大切な誰かと美味しい食事をしながら最高の時間を過ごす場所として、これ以上の場所はないでしょう。
「石の蔵」は、砂糖や小麦粉を貯蔵するための蔵を、当時の所有者のご子息だった現オーナーが受け継ぎ、レストランとしてオープンさせました。
オーナーが、デザイナーの新藤力さんの店舗デザインを気に入り、依頼したのだとか。
レストラン部分は手掘りの良質な大谷石で造られ、その鑿の跡もくっきりと残る重厚な雰囲気です。高い天井、強固に組まれた梁、建物好きでなくとも見入ってしまいます。
天井が高く、フロアも広いのですが、圧倒されるよりも落ち着きを感じるのは、 華美な装飾のない木製の椅子や、他では見られない長いテーブルの重厚さと相まって、石の力、樹木の力を感じるからかもしれません。
カフェ&ショップ部分は、後年の機械掘りで産出された大谷石でできています。滑らかな石肌は、歴史の重みよりも現代的な雰囲気を感じさせます。
店内に並べられた商品も、手作り電球の技術を使い、極限まで薄くした手吹きガラスの器や、土と火で作り上げる焼き物、木の食器といった、自然に近いところにあるもの。引き立て合って、より魅力的に見えます。
実はレストランには二階席があります。わずか3つのテーブル席からは一階席が一望でき、劇場のボックス席のような雰囲気を味わえます。秘密の隠れ家のようなスポット。ここは恋人と来たいところですね。
芳醇な香りとともに「和豚もちぶた肩ロースの燻し焼き」を食す
お店の魅力に釘付けになっていた記者Tを案内してくださったのは、料理長の熊谷稔さん。
那須の二期倶楽部の総料理長を務め、平成13年から石の蔵で料理長をされています。
「うちでは、和豚もちぶたは肩ロースとバラを使っています。今日は、肩ロースを使った料理をお出しします」
撮影にお借りする場所を探してうろうろするうちに、早くもお料理が出来上がりました。
「え? 土鍋? 鍋料理ですか?」
熊谷さんが蓋を取ると、ふわっと煙が立ち上りました。
「和豚もちぶた肩ロースの燻し焼きです」
煙は、湯気ではなくて、スモークした煙でした。スライスした和豚もちぶたの肩ロースと野菜のみのシンプルなメニューですが、お肉の香りと野菜の鮮やかさに、女子二人は目が釘付けになりました。
「このお肉の表面の照り!つやつやというより、きらきらしてますよ」
肉の間にいい感じに入り込んだ脂に、スモークの香りが染み込んでいます。
「脂に、香ばしい風味がついてますね」
「一度、藁でスモークしています。かつおのたたきって、藁で燻すでしょう。あれに着想を得て、今年になってから藁でスモークするようになりました。今のところ、和豚もちぶたには一番合っているのではないかと思います。その後、お出しするときにもう一度、桜のチップでスモークしています。湯気や煙は、食欲をそそる演出にもなりますから」
その通りです。蓋を開けたときのわくわく感がアップしますよね!
「味付けもシンプルですね。塩・・・だと思うんですけど」
「まずは塩コショウです。あとはチャーシューを作るように、水と酒と醤油で煮て、
冷まして味をなじませます。それからスモークします」
そんなに複雑な味付けだったんですね・・・
「野菜も、野菜の甘みがあって、食感も楽しめますね。それぞれの歯ごたえがあるというか」
「ズッキーニは瑞々しさが残っているし、じゃがいももシャキシャキしてます」
「あまり火を通しすぎると、野菜の甘みがなくなってしまうんです」
「野菜は地場野菜だと伺いました」
「そうですね。なるべく県内エリアで作られたものをお出ししたいと思っています。
本当は宇都宮ですべて賄えるのが理想ですが、それも難しいので、
栃木県内で契約農家さんにお願いして出荷していただいています。
中でも海老原ファームさんの野菜はおいしいですよ」
「和豚もちぶたはいつからお使いになってますか?」
「何年くらいでしょう・・・
きっかけは、関口肉店さんが飛び込みで営業に来られて、試食して気に入ったからですね。
以前は別の豚を使っていたのですが、うちでは、牛と豚で同じ値段のお料理を出すと、
牛を選ばれるお客様が多く、豚に割高感があるようでした。
それで、味に遜色なく、牛よりもリーズナブルなお値段でお出しできる豚として、
和豚もちぶたを使い始めました。
脂の甘さ、肉のきめ細かさ、もちもち感、どれを取ってもいい肉だと思います。
私自身はお客様から直接感想を聞くということはあまりありませんが、
料理を出すスタッフが、『もちもちしてるからもちぶたなの?』と聞かれたりすることがあるそうです。好評ですね」
「この器もすてきですね。土鍋かと思いました」
「土鍋です(笑)益子で陶芸をされている佐藤敬さんの作品です。オーナーから依頼して作っていただきました」
「じゃあ、デザインはオーナーさんがされたんですか?」
「いえ、私です。オーナーに『簡単でいいから、デザイン画を描け』と言われまして。土鍋にもなって、陶板にもなって、というようなものを考えました」
地元産の素材が奏でる奥ゆかしさは、晴れの日にもふさわしい
「こちらでは、ウエディングもされているそうですね」
「ウエディングは、月によってばらつきがありますが、平均すると月2件くらいでしょうか。土日が多いんですが、貸し切りにするとランチのお客様をお断りすることになってしまうので、今くらいがちょうどいいと思ってます。以前は、土日がほとんどウエディングで貸し切りだったこともありましたので」
「広いフロアでウエディングをやりながら、個室でちょっとだけランチ、というわけにいかないんですね」
「ウエディングのときは、全館貸し切りにするんです。個室は控室などで使いますからね」
「何人くらいまで入れるんでしょう」
「着席でしたら、40~60人くらいは入ります」
石壁の大広間で、奥をひな壇にして、背もたれの高い椅子が並んだ長テーブルに招待客が座ったら、ヨーロッパの古城で式を挙げるような雰囲気になりそうです。
「20人くらいでしたら、個室貸し切りでお使いいただくこともできますよ」
少人数で、穏やかに談笑しながら進むウエディングというのもすてきですね。
開店当初は、京都の料亭に料理のプロデュースを依頼していた時期もあったのだとか。
でも、宇都宮が誇る大谷石の堂々たる蔵には、栃木の食材を使った料理が最高に相性が良かったということなのでしょう。
落ち着くべきところに落ち着いたと思える料理の安定感が、石の蔵最大の魅力に違いありません。
というわけで、もちろん本日も完食!!
ごちそうさまでした!