レシピで世界を巡る旅。
今回は海を渡ってヨーロッパへ。
スペインからフランスにまたがるバスク地方の料理「アショア(Axoa)」をご紹介します。
ヨーロッパ屈指の「美食の地」へ
バスク地方(Basque)は、スペインとフランスを隔てるピレネー山脈の西側からビスケー湾にかけて広がる地域。
地形の関係もあって他国の影響を受けにくかったことから、昔から独自の文化圏が形成されてきました。
国境ではスペイン領とフランス領に分かれていますが、他のどの言語にも属さない「バスク語」を話す人々が多いのも特徴です。
ちなみにスペインバルで供される「ピンチョス」はバスク語。
最近日本で流行っている「バスクチーズケーキ」も、この地方の伝統的なスイーツです。
臼居先生宅の万能菜園、初公開!
さっそくバスク料理に取り掛かる前に、今回使う野菜やハーブを準備します。
取材中に時々「ちょっとお庭で取ってくるわ!」とハーブを摘みに行っていた先生。いったいどんなお庭なのか常々気になっていたのですが「お天気もいいし、ちょっと見てみる?」と、その菜園を見せていただけることに!
庭の南側に面した一角に、びっしりと植えられたハーブや香味野菜。ローズマリー・タイム・ミント・チャイブ・フェンネル・オレガノ・ローリエなどのハーブから、あさつき・青じそ・みつばなどの和野菜、とちおとめまで!さりげなく一株ずつ植えられていますが、その守備範囲の広さは驚異的!
洋食にも和食にもスイーツにも対応できるオールマイティな菜園は、からりとした5月の日差しを浴びて、緑がひと際鮮やかです。
ハーブはそれほど手がかからないので、年に一度くらいのお手入れで十分とか。そのぶん完全無農薬なので、安心で新鮮な食材ばかり。
この菜園から、新鮮なハーブや野菜を調達することにします。
アショアの仕込み
さて、お庭の菜園からキッチンに戻って調理開始。
テーブルにはすでに、スロバキアやスペイン製のおしゃれな食器が並べられています。
アショアには絶対欠かせない調味料は、唐辛子。
バスク人は、大航海時代にスペインが新世界から持ち帰ったじゃがいもや唐辛子を受け入れ、唐辛子はその後のバスク料理の特徴の一つとなりました。
なかでも毎年「唐辛子祭り」が開催されるフランス側バスク地方のエスプレット村では、家々の軒下などに唐辛子がたくさんつるされている光景が有名。
黒くなるまでよく干した唐辛子を粉にしたものが、政府も認定するこの村の特産品です。
「エスプレット・パプリカ」は、エスプレット村産でフランスAOP認定の唐辛子の粉。産出量が少ないので、ひと瓶が数千円という高価なスパイスです。
辛さはもちろんありますが、激辛というわけではなく、甘みとのバランスが絶妙な、旨味を感じる唐辛子です。
とはいえ、市販のパプリカパウダーと一味唐辛子を混ぜても代用できるので、ご安心を^^
ハーブは、ローズマリー・タイム・ローリエを使います。いずれもさっきお庭で摘んだばかりの新鮮なもの。
赤パプリカ1個を1cm角くらいに切り分けます。お好みで、黄色やオレンジのパプリカも使ってみると色合いも豊かになるかもしれません。
ししとうはヘタを落として丸ごと使います。
緑色のピーマンでもOK。
玉ねぎは粗みじん切りに。
にんにくはつぶして使います。にんにくをたっぷり使うところは、スペイン料理のDNAでしょうか。
煮上がる頃には匂いはほとんど消えて、コクだけが残ります。
今回は生(干していない)にんにくを使ってみます。外側の皮が柔らかいにんにくは、とても新鮮そうです。
「アショア」は、バスク語で「細かく刻んだもの」という意味。細かく刻んだ牛肉・子羊肉を使うことも多いのですが、今回は和豚もちぶたのモモ肉を使います。
もも肉500gのブロックを1cmの厚みでスライスしてから、角切りにしていきます。
加熱して縮むので少し大きめに切るのがポイント。小さな角切りをつくるイメージです。
あらびきのひき肉でもOKですが、固まりを用意して調理する時に自分で切り分けるほうが鮮度を保てるのでおすすめです。
切り分けたお肉には塩コショウをして置いておきます。コショウは多めにかけておくと風味がよくなります。
ちなみに、ステーキなどは別として他の具材もはいる肉料理なら、お肉は一人当たりおおよそ100g前後を目安としてみてください。
アショアを作る
アショアの調理法はシンプル&かんたん。時間もかからないので、多めに作り置きしておくのもいいですね。
鍋を熱したら、パプリカとししとうを多めのオリーブオイル(大匙4くらい)で炒めておきます。
軽く油通しをするイメージで、火を通したらいったん取り出しておきます。
炒めた油で玉ねぎを炒め、にんにくは1片ずつ絞り器でつぶしながら3片程度入れます。
にんにくは包丁で切るよりも、つぶして繊維を壊したほうがいい香りが立ちます。
ここでなんと、生ハムが登場!旨味の元として、みじん切りにして使います。日本のかつおぶし同様、熟成した旨味が溶け出します。
バスク地方では、加工肉産業も古くから栄えてきたため、ハムやソーセージなどを上手に使うレシピが根付いているようです。
生ハムは、いったん1枚1枚はがしてからみじん切りにします。こうすると炒めても固まりになりません。
生ハムを鍋に投入して炒めて香りを出していきます。
これはおいしいに決まってます!
生ハムの香りが立ってきたら、豚肉を投入。炒めるというよりは、玉ねぎ・にんにくと生ハムの風味をまとわせるつもりで混ぜていきましょう。
全体が白っぽく火が通ってきたら、煮込み用のタイムとローズマリー、スープセロリを入れます。
香りづけのハーブの枝は、細かく切り分けずそのまま上にのせておくと、最後に取り除くときに便利です。
白ワイン200mlを注ぎます。
水分はこれだけ。蓋をして8~10分ほど煮込みます。
8~10分ほど煮込んだら、加熱はほぼおしまい。汁気が多すぎるようなら、煮こむ時間を調整しましょう。
煮あがったら、枝ごと入れたハーブ・セロリを取り出し、炒めておいたパプリカ・ししとうを加えます。
ここで塩コショウをして味を整え、「エスプレット・パプリカ」を小さじ1杯弱程度加えます。
水気がほとんどなくなった時点で火を止めたら出来上がり!
冷えてくると味が染みて、とろみも出てきます。
アショアの付け合わせ
アショアにはじゃがいもがお約束
付け合わせのじゃがいもを準備。お米と組み合わせることもありますが、基本はじゃがいもだそうです。
じゃがいもは、1人1個分を目安に、まるごといったん蒸してから皮をむいておきます。
端を高くして皿のようにしたアルミホイルに、縦に4つに切ったじゃがいもを並べます。
軽く塩コショウ、ナツメグをかけます。
じゃがいもとナツメグの組み合わせはおすすめです。
上からオリーブオイルを振りかけたら、オーブントースターで焼きます。
時間はトースターにもよりますが、上下5分焼いてから、上火だけで5分程度。
表面がこんがりと軽くベイクされたような状態になったら出来上がりです。油で揚げないのでヘルシーなメニューです。
菜園の野菜・フルーツで作るスペシャルサラダ
お庭でさっき収穫した野菜たちを使ってサラダを作ります。スイスチャープ、セロリ、ロメインレタス、そしてイチゴも!
ドレッシングは、塩原の道の駅で販売している「ブルーベリー生ドレッシング」を使ってみました。
とっておきのドレッシングをかけた、フルーティーなサラダが出来上がりました。
アクセントに
お庭で収穫した新鮮なイタリアンパセリのみじんぎりを作っておきます。最後にアクセントとしてふりかけると、料理がグッと引き立ちます。
頻繁に使うハーブは、小さな鉢に寄せ植えしておくと見た目もきれいで、必要な時に摘んで使えるのでおすすめです。ぜひお試しくださいね。
アショアを味わう~ 料理が生まれた場所へ
アショアができあがりました。
細かいひき肉で作るお店も多いのですが、今回のように粗く切ったお肉を使うほうが断然おいしそうです!
今回の分量はおよそ4人分。鍋のアショアを4分の1ずつ取り分けていきます。
テーブルにさりげなく置いてあるカトラリーは、ポルトガルのクチポール社製。お玉置きの柄はガウディのモチーフ。先生のセンスはさすがです。
テーブルを見ているだけで、その料理が生まれた場所に誘われていくようです。
色鮮やかなアショアを一口食べてみます。
無意識のうちに「激辛」の衝撃に身構えていたスタッフ。辛み自体はしっかりあるのですが、食べてみると、なんとも優しい感じのピリ辛風味に驚きました。
パプリカらしい、香ばしく乾いた香りも口の中に広がります。
塩コショウとハーブだけのナチュラルな味付けなので、お肉本来の味もダイレクトに味わえます。
かみしめるほどに旨味が広がる、和豚もちぶたもも肉のおいしさもそのまま。
軽くグリルしたじゃがいもは、表面はすこしカリっとして、中はしっとり。アショアの味によく合います。
アショアはじゃがいもと一緒に食べるのが定番ですが、お米と一緒にいただく場合もあります。
あつあつの白米と食べると、香ばしい風味とお肉の旨味がより広がります。
おしゃれなパスタ皿にアショアとごはんを盛り付け、エスプレット唐辛子を散らすと、まるで絵画のような美しい一皿に。
テイクアウト用の容器に詰めた「バスク弁当」もできあがりました。冷めてもおいしいので、お弁当にもおすすめ。
こんなおしゃれなお弁当なら毎日でも食べたいですね^^
アショアを食べてみて何より感じたのは、その味わいの「優しさ」。奥行きといい辛さの種類といい、間違いなく「日本にはない味」なのですが、何となく懐かしいような、家庭料理の味を楽しむことができました。
素材の味を大切にするナチュラルな食文化は、日本人にはとても身近に感じられるのですね。
今の社会情勢が落ち着いたら、臼居先生もぜひバスク地方を訪れたいと思っているとか。
奇しくも、ユーラシア大陸の西の端と東の端。
遠い異国の地の食文化に意外な共通点を見出して、不思議な安心感を感じた取材でした。
分量のおさらい
アショア(4人分)
- 豚もも肉・・・・・・500g(または牛肉・子羊肉)
- にんにく・・・・・・3片
- 玉ねぎ・・・・・・・1/2個分(みじん切り)
- 生ハム・・・・・・・40g(みじん切り)
- 赤パプリカ・・・・・1個
- ししとう・・・・・・8本
- 唐辛子・・・・・・・小さじ1
(エスプレット唐辛子、または一味唐辛子とパプリカパウダー) - 白ワイン・・・・・・200ml
- ローリエ・・・・・・1枚
- タイム・・・・・・・適量
(その他スープセロリ・ローズマリーなど) - イタリアンパセリ・・適量(みじん切り)
- オリーブオイル・・・大さじ4
- 塩・コショウ・・・・適量
付け合わせ
- じゃがいも・・・・・・・4個
- 塩・コショウ・・・・・・・適量
- ナツメグ・・・・・・・適量
- オリーブオイル・・・・・・・適量
サラダ
- ベビーリーフ・・・・・・適量
(スイスチャープ・ロメインレタスほか) - いちご・・・・・・・・・3粒