大雪の予報に世間がざわついている1月某日、取材スタッフは料理研究家・臼居芳美先生のお宅を訪れました。
今回は関口肉店社長夫妻も緊急参加。料理のプロとお肉のプロの共演に、いやがうえにも期待が高まります。
今回ご紹介するレシピは「スンドゥブ」と「キンパプ」。いずれも韓国料理の定番レシピですが、和豚もちぶたを使っておいしくアレンジしていきます。
韓国版恵方巻きとぽかぽか鍋 を和豚もちぶたで
「キンパプ」は一言でいえば韓国風の海苔巻き。「キンパ」と呼ぶ場合もあります。酢飯ではなくゴマ油などの下味がついたご飯に、お好みの具をたっぷり海苔で巻いていただくイメージは、まさに韓国版「恵方巻」^^
いっぽう「スンドゥブ」は、豆腐のはいった韓国風鍋(チゲ)料理。
韓国料理店などではおなじみのメニューですね。キムチや唐辛子・アサリなどが入る、冬ならではのポカポカ鍋に今回は和豚もちぶたも加えます。
早速調理開始!キッチンには先生が仕込んでおいてくれたさまざまな具材がスタンバイ済です。
まずは用意した和豚もちぶたを食べやすく一口大に切り分けておきます。
今回は和豚もちぶたのバラ肉ともも肉のスライスを用意して、メニューにあわせて使い分けましたが、いずれのレシピも豚コマで大丈夫。
使いやすい豚コマは、冷蔵庫に常備しておくと重宝しますね。
スンドゥブもキンパプも、あらかじめお肉に下味をつけていきます。韓国料理は下味をつけるところが重要なポイント、と先生。あらかじめお肉に味を入れておくことで、出来上がりの味わいに奥行きが生まれるのです。
スンドゥブ用お肉の下味
スンドゥブではバラ肉・もも肉をまぜて使ってみます。食べやすい大きさに切ったお肉に、酒・醤油・すりごま・すりおろしにんにく・粉唐辛子、そして砂糖ひとつまみを加え、こちらもよくもみ込んでおきます。
調味料をお肉にもみ込んだ時点で、すでにいい香りが!! お砂糖を上手に使ってコクを出す点もポイントですね。
お肉を調理する前に気を付けたいこと
- 冷凍肉の上手な解凍方法は、細胞の「浸透圧」に深い関係があります。たとえば生理食塩水などにつけると、パサパサしたり水っぽくなったりしないで済みます。
- 下味などでお肉に塩味を加える場合、漬け置きは数分程度にしましょう。細胞の浸透圧の影響で、長時間漬け置くとお肉は固くなってしまいます。
- 意外と忘れがちですが、お肉は必ず常温に戻した状態で調理するのが鉄則。加熱時の温度差が大きいと、お肉が固くなったり、均一に火が通りにくくなるからです。
冬に食べたいホッコリ太巻き キンパプ
キンパプの外見は、ほぼ日本の巻き寿司と同じですが、ご飯の味付けとお肉を使うところが特徴的。また、具材は生ものではなく火を通したものがほとんどです。
キンパプ用ごはん
普通に炊いた白いご飯に、塩・ごま油・白ゴマを混ぜ込みます。 (画像2)
なんといってもごまの風味がポイント。ボウルでふっくら混ぜあがった炊きたてご飯から香ばしい香りが立ち、これだけでもお食事ができそうな勢い^^
キンパプのお肉を焼く
お肉に下味をつけて5~6分置いたらお肉を焼いていきます。
熱したフライパンに少量のごま油を引き、強めの中火でお肉を焼いていきます。焼き目が付いてから裏返す感覚で、あまり最初から動かさないようにするほうがおいしく火を通すコツ。火が通ったら容器に移しておきます。
海苔にご飯を広げる
ごはんのほうに味がついているので、海苔は日本と同じ味付けなしのものを使います。
キンパプ1本分のごはんは2分の1合程度。巻き簾のうえに海苔一枚を置き、その上にごはんを4か所にわけて置きます。こうすると、むらなく平らにご飯を広げやすいのです。
そして手元とは逆側の1辺だけ、隙間を1~1.5cm程度空けておきます。巻き簾で巻くときに「のりしろ」になる部分です。
いっぽう、その他の辺には、端までしっかりとごはんが広がっている状態にしましょう。こうすると海苔巻きの両端がスカスカにならず、無駄なく切り分けられるのです。
具材をのせる
ごはんの上に具材を重ねていきます。先生が今回用意してくれたのは、ホウレンソウのナムル、厚焼き卵を細長く切ったもの、魚肉ソーセージをごま油で軽く焼き、塩コショウで味付けしたもの、カニかま、たくあん、千切りにした人参をごま油で軽く炒め、塩・砂糖少々で味付けしたもの。かなり具だくさん!
全体の太さが均等になるように具材を重ねていき、長すぎる場合は端を切り落としましょう。
さらに香りのアクセントとして、エゴマの葉を入れることも多いとか。 今回は先生お手製のエゴマの葉の醤油漬けを使いました。生醤油だけで漬け込んだエゴマの葉は、保存食として常備すると重宝します。一枚重ねるごとに少しずつ生醤油を足していくのがまんべんなく漬け込むコツ。使う時は、一枚一枚を広げてペーパータオルにはさんで置き、醤油の水分をとっておきます。
巻き簾でキンパプを巻く
具材を乗せ終わったら巻き簾でキンパプを巻いていきます。とはいえ、巻く要領は日本の巻きずしとほぼ同様。
- 手前の端が「のりしろ」の手前にとどくまで、巻き簾ごとゆっくり巻いていきます。
- そこで位置を決めたら、しっかり力をいれて形を整えます。
- 日本の巻きずしと違い、キンパプは割と固めに巻いてしまってOKです。
- 位置と形が決まったら、巻き簾を浮かせてコロコロ巻いていきましょう。
そして巻き終わったら、両端にも少量のご飯を詰めて表面を平らに整えておきましょう。これで「端っこ」の部分もちゃんと1個として切り分けられますよ♪
もちろん太巻きの両端は自分の味見用♪と決めている人は別ですが・・・(笑)
具材が多くて「のりしろ」が足りなかったときは
海苔巻きで、具材を多く乗せすぎて、海苔で巻ききれない!という場合がよくありますよね^^
そんなときは、海苔を縦に数cmほど細長く切り、補強テープのようにつなぎ目に当て、巻き簾で巻いておけば、ごはんと具材の水分でぴったりと接着されますよ。ぜひお試しください!
キンパプを切り分ける
巻き終わったキンパプを切り分けていきます。以前ご紹介した「おにぎらず」同様、包丁を入れたとたん、思わず歓声が!ほれぼれするような優しい春色の断面が現れました。包丁は、切るたびに濡れ布巾などで拭き取り、ベタつかないようにしておくとキレイに切り分けられますよ。
ぽかぽか鍋料理「スンドゥブ」の調理から試食タイムへ
つづいては「スンドゥブ」を作ります。
「巻く」というひと手間が楽しめるキンパプに対して、鍋料理のスンドゥブの手順はいたってシンプル。とても簡単に言ってしまうと、味付けしたお肉を鍋で炒めたら、そのまま具材といっしょに煮込むだけ。
旨味たっぷりの具材たちが、一つの鍋の中で素晴らしい味を仕上げてくれるのです。
お肉を焼く
お肉に下味をつけて常温で5~6分置いたら、鍋に少量のごま油を引き、中火で軽く焼きます。
あとで煮込むので、ここではお肉の色が変わる程度でOKです。火が通ったお肉は鍋から取り出さず、そのまま次の手順へ。
具材を煮込む
食べやすい大きさに切った白菜キムチ、中華スープの素、アミの塩辛(またはカツオの塩辛)、あさり、ネギ、豆腐と水3カップを鍋に投入。辛さ大好き!という方は、生の唐辛子や乾燥唐辛子をお好きなだけ♪
味を調整
具材に火が通ってきたら、塩味を確認しましょう。キムチに塩味がついていますが、お好みで調節してみて下さい。
アサリの殻が開いてきたら、鍋に生卵を落とします。卵のまわりがうっすら固まりかけたらできあがり^^
アサリの砂抜き
最近のアサリはキレイな環境で養殖されているのであまり砂を吐かないようですが、砂抜きは必ず行いましょう。お皿の上で水に漬かっているアサリは、半分水面に出ている「浅瀬」の状態。このほうがアサリが砂を吐きやすいのだそうです。
関口肉店社長夫妻も参加した今回の取材では、随所でプロならではのエピソードや豆知識などの会話が交わされました。レシピの間に散りばめた数々のコラムは、そんな会話の中から取材させていただいたもの。スタッフにとっては貴重すぎる体験です。
そして、食欲をそそる香りでキッチンがいっぱいになる頃、試食の時間となりました。
試食
ビビンパ用の器で煮込んだスンドゥブは、食卓に持ってきてもまだグツグツ煮え続けていて、迫力満点です。
その傍らには春の花畑のような鮮やかなキンパプが重ねられ、見た目にも暖かそうな食卓ができあがりました。
スンドゥブの唐辛子色のスープは、キムチ・アサリ・塩辛などの具材から出た濃厚な出汁と和豚もちぶたの旨味が融合して、適度な辛さと信じられないくらいコクのある味わい。
半熟になった卵の黄身をつぶすと、さらにまろやかさが加わります。韓国ではここにラーメンを入れて楽しむことも多いそうです。
いっぽうキンパプは、生野菜や生の魚介類を酢飯で巻く日本の巻き寿司とは似て非なるもの。温野菜と和豚もちぶたの香ばしさ・優しいゴマ風味で、寒い季節にもホッコリ楽しめる太巻きです。
お肉はひき肉のそぼろなどを入れる場合もあるようです。
盛り付けの時は、日本の巻き寿司より少し薄めに切って2段に重ねて出すことも多いとか。なんだかお祝いのようでうれしくなりますね♪お皿いっぱいに鮮やかな断面が広がるので、食卓も華やかです。
年末年始のお仕事でパリから帰国したばかりの臼居先生曰く、
栄養のバランスの良さでは、欧米ではなく和食などアジア料理のほうに軍配があがるのではないか、とのこと。
中国・韓国も日本も「五味五色」の考え方が食の根底にあり、
意図せずとも栄養のバランスが自然に取り入れられている、というところが、欧米の人々には魅力なのかもしれません。
試食中の話題はさらに、食肉業界も含めた「食」全体のお話へ。
包丁や砥石をはじめプロが使う道具のこと、和豚もちぶたの育種・飼料の話はもちろん、
世界各国の豚肉文化、「動物の命をいただく」ということ、屠畜に対する捉え方、これからの食育のこと・・・などなど。
スタッフにとっては永久保存版とも言える、プロ同士の深いお話がつきませんでした。
取材が終わって先生宅を出たとたん、チラチラと雪が舞ってきましたが、
スタッフ一同、おなかも心もぼかぽか暖かくなった今回の取材でした。
分量のおさらい
キンパプ(韓国風海苔巻き) 4本分
- 米・・・2カップ
- 海苔・・・4枚
- ほうれん草・・・1/2束
- 人参・・・1/2本
- 豚肉(モモ肉または豚コマ)・・・200g
- 砂糖・・・小さじ2
- 醤油・・・大さじ1
- みりん・・・大さじ1
- コショウ・・・少々
- たくあん・・・1/2本
- 玉子・・・2個
- カニカマ・・・8本
- エゴマの葉または青じそ・・・8枚
スンドゥブ 4人分
- 豆腐・・・約500g
- アサリ(砂抜きしたもの)・・・200g
- 白菜キムチ・・・150g
- ねぎ・・・1/2本
- 豚バラ肉(または豚コマ)・・・100g
肉の下味用調味料
- 酒・・・小さじ1
- 醤油・・・小さじ1
- すりごま(白)・・・小さじ1
- にんにく(すりおろし)・・・小さじ1/2
- 粉唐辛子・・・小さじ1/2
- 砂糖・・・ひとつまみ
鍋用調味料
- 水・・・カップ3
- 中華スープの素・・・大さじ1
- すりごま(白)・・・小さじ1
- アミの塩辛(またはカツオの酒盗など)・・・大さじ1
- (あれば)赤唐辛子・青唐辛子・・・各1/2本
- 玉子・・・4個
- ごま油・・・大さじ1