台風と秋雨前線の影響で、はっきりしないお天気の9月某日、今回も料理研究家・臼居芳美先生のお宅を訪れました。
今回のレシピは「紅茶豚」。
スタッフ全員まったく食べたことも見たこともなかった、未知の領域です。料理の撮影用に新しい照明を追加したというキッチンでは、先生が2日前から漬け込んでくれていた撮影用の紅茶豚が、私たちスタッフを出迎えてくれました。
「紅茶豚」とは、味をつけずに紅茶だけで煮あげた豚肉を、つけ汁で仕上げる料理。
煮豚のひとつではありますが、煮込んで味をつけるのではなく、
あくまで漬け置きをして味をしみこませていくのです。
つけ汁にはお酢が入っているので、
チャーシューや角煮よりもさっぱりした風味になるそうです。
と、ここまで聞いても今ひとつイメージがわかないスタッフは、
期待だけがふくらむままに早速取材スタート!
シンプルかつ大切なステップ 紅茶で豚肉を煮る
今回は肩ロースのブロックを使いました。
もも肉でも美味しく作れますが、肩ロースのほうが適度な脂が含まれているので柔らかく仕上がります。
お肉はあらかじめ常温にもどしておきましょう。
かたまりの肩ロースをタコ糸でしばります。
タコ糸で縛ることで、煮ているうちにお肉がゆがんだりほぐれてしまったりすることを避けられます。
お肉屋さんにお願いすれば、たいてい対応してくれるそうです。チャーシュー用のネット等を利用してもOKです。
巻くときは極端にきつく縛らなくてもOK。
プレゼントの箱のように(笑)お肉に対して縦と横の方向にタコ糸をかけます。
ゆるみがない程度に縛っておけば、煮込んでいる間にタコ糸が縮んでしっかり固定します。
あとでキレイにほどけるように、糸の端は結んでおきましょう。
紅茶
調理を開始するにあたり、あと必要な材料は紅茶だけ。
市販のティーバッグを使っても全然問題ありませんが、今回は茶葉を使ってみました。
先生は八溝山系の茶畑でとれた「八溝ティー」とアップルティーの茶葉をブレンド。ぜひお好みの茶葉を使ってみて下さい。
ティーバッグの場合、気になる方はラベルや取っ手の紙などをはずして煮込んでくださいね。
手製のティーバッグ
ご家庭のペーパータオルを折り紙のようにたたんで茶葉を入れ、ペーパータオルの端を内側に折り込んでおけば、濡れるとはずれなくなります。ぜひお試しくださいね。
ティーバッグとタコ糸でしばったお肉を、ひたるくらいの水と一緒に鍋に入れます。火加減は中火。
お肉のブロックが500g前後なら、ティーバッグ2袋を使います。
沸騰したら、軽くアクをとりながら30分煮ます。
当然ですが、煮汁はきれいな紅茶色^^
「調理時間」とは
煮る場合の「調理時間」とは、あくまでも「沸騰してから」の時間。沸騰するまでの時間を含めないように注意しましょう。
30分煮るうちに、さすがの和豚もちぶたでも少しアクが出てきます。
アクをとる時は、おたまをその都度水で洗いましょう。
30分経って、和豚もちぶたの肩ロースがしっかり煮あがりました。
まだ味付けはされていません。
単純なステップのようですが、いちばん重要な手順。
ここで紅茶豚の味わいのベースが作られているのです。
時間もひとつの調味料漬け置くことで完成する紅茶豚の風味
紅茶色に煮あがった豚肉が熱いうちに、漬け汁に漬けていきます。
ここからが味付けのステップです。
漬け汁を準備
漬け汁は、しょうゆ・みりん・お酢を同量。
分量はお肉の大きさなどにより調整してください。すべて同じ割合であればOKです。今回は1カップずつ。
すべてを鍋に入れ沸騰させます。
計量カップを使うのがめんどうな方は、普段お使いのマグカップの「ここまでがちょうど何cc」などと覚えておくと重宝しますよ♪
熱い食材を熱い漬け汁に投入
漬け汁が沸騰したら火を止め、煮あがっている豚肉を熱いまま漬け汁の鍋に入れます。
最終的には袋に入れて漬け置きするのですが、まずは熱い食材を熱い汁に入れると、冷めながら味が滲みていくのです。
鍋のフタをして、ひと肌くらいに冷めるまで置いておきましょう。
漬け置き
粗熱がとれたら、ビニール袋に入れて冷蔵庫で漬け置きします。
ジッパーつきの袋も便利ですが、先生のおすすめは厚めのポリ袋。液状の食品を入れる際に空気を抜くのがラクなのです。
口を縛りながら調節し、なるべく空気を抜いた状態で冷蔵庫へ。
最低でもまる一日ほど漬けておくと味がよく滲みこみます。
お酢がはいっているので、ある程度保存が効きます。
まる一日漬け込めば食べごろ。さらに2~3日漬け置くとさらに味わいが増します。冷蔵庫で1週間程度は置いておけますよ。
紅茶豚を漬け込んだ汁は旨味たっぷりなので、食べるときのタレとして使いましょう。ゆずなどをまぜてもおいしそうですね♪
紅茶豚を切る
タコ糸をはずして、紅茶豚にいよいよナイフを入れていきます。
ブロック肉を調理するお料理は、この瞬間が楽しみですね^^
脂身だけの所があれば、もったいないですが取り除いておきます。
しっかり火が通っているはずなのに、切り口が見事なピンク色!チャーシューよりも柔らかく仕上がるのが特徴です。
お味見にひと切れいただいてみましたが、柔らかくほんのりとした酸味があり、洋風のオードブル的な味わいです。
つまみ食いが止まらなくなりそうなところをグッとこらえて、
多彩なつけあわせとの盛り付けへ。
英国紅茶文化の落とし子?「紅茶豚」を多彩に味わう
紅茶豚の多彩なアレンジ
切り分けた紅茶豚を、さまざまな食材と一緒に味わいます。
マッシュポテト
紅茶豚に相性ピッタリといわれているのが「マッシュポテト」。
濃厚な味が酸味のあるお肉によく合うのです。
ゆでたジャガイモを熱いうちにバターを入れてつぶします。今回は男爵を使いました。生クリームを入れてもいいのですが、バターに加えて牛乳を少量まぜてもおいしく仕上がります。
ちなみにジャガイモが主食のドイツには「ジャガイモだけでフルコースを作れないとお嫁にいけない」という古い言い伝えがあるとか。
ジャガイモはそれくらい優秀な食材なのですね。
手づくり粒マスタード
マスタードシード(辛子の実)を水につけて柔らかくし、酢・砂糖・塩をまぜた液に漬けこみました。
入手できれば、イエローマスタードに対してブラウンマスタードを20%ほどの割合で混ぜると色合いもきれいに出来上がります。
マスタードの粒はふっくらとやわらかく、口の中でプチプチとはじける感じが絶妙です。
大麦の粉入りバケット
パリッと焼きあがったバケットは、何といっても焼き色が見事!
つけ合せ食材にしては存在感がありすぎます(笑)
オーブンから出した直後、
表面からパリパリ・パチパチと香ばしそうな音が・・・!
栃木県の特産品である大麦の粉が20%ほどはいっています。
先生考案の「マル秘テクニック」を使うと、こんなふうに焼きムラがなく仕上がるのだそう。
先生曰く「年末に本を出すの。そこに掲載するので見てね!」とのこと!ぜひぜひご期待くださいね♪
盛り付け
前回の「お米の国」の食卓から一転、今回はすっかり「ヨーロッパの食卓」になったキッチンのテーブル。
さまざまな食材と一緒に、いよいよ紅茶豚を堪能します。
マッシュポテト・ブロッコリーをそえて
彩りもきれいな組み合わせ。どちらも紅茶豚によく合います。
煮汁をタレとして小さなグラスに入れました。
黄色があざやかな粒マスタードもそえて、豪華なオードブル皿の出来上がりです。薄く切ったリンゴを添えてもいいですね。
生春巻き
意外なところで、エスニック料理で人気の「生春巻き」にもしてみます。
ライスペーパーを軽く水にくぐらせ。パクチーの葉ときゅうり・大根の千切り、細めに切った紅茶豚をのせて優しく巻いていきます。
ピーナッツを砕いたものを少々散らしたら、俄然タイ料理らしくなります。
ライスペーパーは湿らせすぎは禁物。すこし固いかなというくらいでOKです。
サンドウィッチ
大麦入りのバケットは、切れ目をいれて粒マスタードときゅうり・茹で玉子・紅茶豚をはさむと、おしゃれなバケットサンドに。
食パンは粒マスタードをたっぷり塗って、薄切りのきゅうり・茹で玉子と紅茶豚をはさみました。
試食
オードブルで供される「冷製肉」という表現がぴったりの紅茶豚ですが、メインディッシュはもちろん朝食で食べてもいいような、すっきりした味わいです。つけ汁にお醤油がはいってはいるのに、決して和風を主張することもありません。
マッシュポテト・粒マスタード・パクチーをはじめ、つけあわせ食材のそれぞれとも相性ピッタリなのが不思議。
硬すぎず柔らかすぎず、
肩ロースならではのもっちりとした食感が楽しめます。
むしろマッシュポテトの濃厚さを中和するくらいさっぱりとして、いくらでも食べられるお肉。
お肉好きには危険かもしれませんよ(笑)
イギリス料理のレシピのなかにも、豚肉を紅茶で煮る、という方法があるとか。
この紅茶豚も、もしかするとイギリス紅茶文化の落とし子なのかもしれませんね。
紅茶で煮ることで、茶葉に含まれるタンニンが脂肪をとかし、
お肉が柔らかくさっぱり仕上がるそうです。
「紅茶」×「豚肉」という、日本人にはちょっと思いつかないような組み合わせには、
想定外のおいしさが隠されていたのでした。
分量のおさらい
材料
- 豚(肩ロース)ブロック・・・500g
- 紅茶ティーバッグ・・・2袋
漬け汁
- しょうゆ・・・1カップ
- みりん・・・1カップ
- 酢・・・1カップ