2021年度の黄金のレシピでは、世界のさまざまな地域の料理をご紹介します。おうちごはんを楽しみながら、世界旅行気分を味わってくださいね♪
初回にご紹介するのは、アメリカテキサス州からメキシコにかけての地方が発祥の「チリコンカーン」です。
テクス・メクス地方の歴史と食文化が生み出した「チリコンカーン」
「チリコンカーン」は、アメリカ国民食とも、メキシコ料理とも見られることが多いのですが、ほぼテキサス州独自の料理といってもよく、州の料理としても公認されています。
別名「テクス・メクス (Tex-Mex)」料理とも呼ばれていて、豆と肉、スパイスを煮込んだシンプルなレシピは、この地域のさまざまな文化が融合して生まれたものです。
スペイン語では「チリコンカルネ」、アメリカでは「チリ」とか「チリコンカーニー」と呼ぶこともあります。
テキサスは、18世紀にはスペイン・メキシコに支配されてきましたが、1836年「テキサス独立宣言」でメキシコの支配から独立し、その後1845年にアメリカ合衆国に加盟して州となりました。
アメリカ南部・中南米の文化の接点に当たるこの地域では、メキシコ・スペイン・アメリカ先住民の食文化、さらにカナリア諸島からの入植者のスパイス文化なども溶け込んで、独特な食文化が生まれたのです。
料理研究家・臼居芳美先生宅のキッチンテーブルで調理を待っているのは、和豚もちぶたのふっくらとしたひき肉、それにたくさんのスパイス。
チリパウダーをはじめとして、コリアンダー・ターメリック・クミンなど、カレーにも使えるようなパウダースパイスが並んでいます。
本来のメキシコ料理ではこういったスパイスを使う習慣はなく、スペイン統治時代にカナリア諸島からこの地方に入植した人々の食文化が反映されているのだとか。
チリコンカーンの味付けには、そんなグローバルな広がりが隠されているのですね。
今回は少しだけ日本風にもアレンジして、隠し味にチャップやウスターソースも使います。
豆は、水煮の赤インゲン(キドニービーンズ)とひよこ豆とトマト缶。生の食材はにんにく・玉ねぎとひき肉のみです。
チリコンカーンを包んで食べるトルティーヤも、簡単なので生地から手作りしてみましょう。
また、ソフトタイプのトルティーヤだけでなく、市販のタコスシェルも準備しました。
ちなみに、初期のテキサス風レシピでは、豆もトマトも入っていなかったとか。豆・トマト・チーズなどを入れる現在の形は、アメリカ中西部の食文化が反映されたものなのです。
チリコンカーンの作り方
さっそくチリコンカーンの調理にかかります。厚手の鍋を熱して、オリーブオイルでみじん切りのにんにくを炒めます。
にんにくの香りが立ったところで、粗みじんに切った玉ねぎを入れてさらに炒めます。
玉ねぎに色が付き火が通ったら、ひき肉を入れます。
ひき肉がよくほぐれて色が変わってきたら、チリパウダーなどのスパイスと小麦粉を投入。とたんに、キッチンには何とも言えない香りが漂ってきました。
パプリカパウダーやクミン・オレガノなどのスパイスが混ざった「チリパウダー」は、もちろんトウガラシも入っていますが、それほど辛くはありません。一般的なメキシコ料理のような激辛がお好みの方は、ここで辛さを調整してみてください。
全体がしっとりしてきたら、水煮のキドニービーンズ(赤いんげん)、ひよこ豆、トマト缶、煮込み用調味料、水・ローリエを加えます。
中火でおよそ20~30分。ときどき混ぜながらとろりとするまで煮込みます。
あとは煮あがりを待つだけです。
手順が驚くほど簡単なので、チリコンカーンがアウトドア料理として人気なのも納得です。
本当なら、大勢で囲むバーベキュー料理として、大きな鍋でたっぷり作りたいところですね・・・。
トルティーヤの作り方
生地作り
チリコンカーンとよく合うトルティーヤも手作りします。
半日寝かせるので、あらかじめ準備しておきましょう。
薄力粉150gと強力粉50gにオリーブオイル・塩をまぜます。
熱湯をボウルの淵から少しずつ注ぎ、覚めてきたら手でこねます。
耳たぶくらいの固さにしたら半日程度寝かせておきます。
トウモロコシの粉(コーンフラワー)を強力粉の代わりに使うと、より現地に近い味わいになります。
トルティーヤは、イースト菌を入れず、粉を練って焼くだけのシンプルな薄焼きパンです。油で揚げたものはトルティーヤチップス。今回手づくりするのは焼くだけのソフトタイプです。
中南米の伝統的なレシピでは、トウモロコシをすりつぶしたもので作る「コーントルティーヤ」になりますが、現代では小麦粉だけの「フラワートルティーヤ」も広く作られています。インドのナンやチャパティ、中東のピタパンなどとも少し似ていますね。
ちなみに小麦は、人類がはじめ食べた穀物と言われています。
世界中の小麦のとれる地方で、同じような製法が昔から存在しているのは、考えてみれば不思議なことですね。
寝かせた生地を8つに小分けして、綿棒で丸く薄くのばします。あとは油を引かないフライパンに乗せ、中火で焼くだけ。
軽く焦げ目がつくように、上からヘラなどで押し付けます。裏側も同様に焼いたら出来上がり。
焦げすぎず、柔らかすぎず、写真のような状態が理想の焼き上がり。
生地が薄いのですぐ焼きあがります。焼けたものは傍らに積み上げておき、どんどん焼いていきましょう。
テレビで見る中東のバザールで、うず高く積み上げてられて売っているシーンを思い出しました。
あまりそのままにしておくと乾いてしまうので、ビニール袋などにくるんで保存しましよう。常温でも3~4日はもちます。
冷凍すれば長期保存することもできます。たくさん作っておいて、いろいろな料理を包んで味わってみるのもいいですね。
テクス・メクス料理 チリコンカーンを味わう
キッチンテーブルに並べられた、チリコンカーンのアレンジメニューの数々。どこから見ても、大勢でにぎやかに食べたい料理ですが、そこはぐっとこらえて(笑)ここにたっぷりの野菜を添えて、テクス・メクス風のおうちごはんにしていきましょう。
テーブルの演出に、と先生が出してくれたのは、メキシコらしいデザインのテキーラのボトル。煮込み料理でありながら、どことなくドライな香りのするチリコンカーンにはぴったりのお酒です。
テキサスのパブを訪れたら、チリコンカーンをつまみにテキーラを一杯、といった風景に遭遇できるかもしれません。
たくさんのスパイスと調味料・玉ねぎの甘みで、独特の風味が醸し出されるチリコンカーン。そこに奥行きを生み出すのが、お肉の重要な役目です。
和豚もちぶたのひき肉は、いわゆるひき肉臭さがなく、それでいてしっかりとしたコクを感じます。
1つめのアレンジは、シンプルにトルティーヤチップスを添えたディップ。ココット型にたっぷりのチリコンカーンを盛り付けました。
お好みでチーズをかけていただきます。チップスのパリッとした口当たりに、しっとりとしたチリコンカーンがよく合います。
2つめは、タコシェルに千切りレタスとチリコンカーンをたっぷり盛り付け、生のトマトとチーズをかけます。色どりにパクチーの葉も添えました。鮮やかな見た目のタコスは、テーブルに並んでいるだけで楽しい気分になりますね。
ハードタコスのトウモロコシの香り、レタスとトマトのフレッシュな味わい、チーズのまろやかさも加わって、見た目よりも食べ応えがあります。タバスコの香りががこれほどよく合う料理はなかなかありません。
そして最後は、手作りトルティーヤにくるんだチリコンカーン。こちらもレタス・トマトを一緒に巻き、色どりにパクチーを添えました。
こちらは全体的にソフトな口当たり。トルティーヤの香ばしさがふんわりとひろがります。さまざまなスパイスが複雑に絡み合うチリコンカーンの風味を、一番よく感じられる食べ方かもしれません。
しっかりとボリューム感もあり、これだけで十分食事になります。
臼居先生はよく「料理には国境はない」と言われます。
あとから人間が引いた国境には関係なく、おいしければどんな文化も受け入れて育っていくのが「食」の魅力です。
地域に受け継がれてきた料理は、長い時間をかけて培われた、人と人とのつながりの証。
そんな思いで味わうと、おうちごはんもまた違った楽しみ方ができるかもしれません。
分量のおさらい
チリコンカーン
- ひき肉・・・・・・・300g
- 玉ねぎ・・・・・・・1個
- 水煮豆・・・・・・・500g ※ひよこ豆・赤いんげんなど
- にんにく・・・・・・1片
- チリパウダー・・・・大さじ1
- 小麦粉・・・・・・・大さじ1
- オリーブオイル・・・大さじ1
- トマト水煮缶・・・・2缶
- 水・・・・・・・・・100ml
- コンソメ(固形)・・・1個
- ケチャップ・・・・・大さじ2
- ウスターソース・・・大さじ2
- 塩コショウ・・・・・少々
- ローリエ・・・・・・1枚
- ドライパセリ・・・・適量 ※お好みで
スパイスパウダー・・小さじ1ずつ※コリアンダー・ガラムマサラ・ターメリック・クミン・シナモン
トルティーヤ
- 薄力粉・・・・・・・150g
- 強力粉・・・・・・・50g ※またはコーンフラワー
- 塩・・・・・・・・・大さじ1/2
- オリーブオイル・・・大さじ2
- 熱湯・・・・・・・・145ml