~ プロローグ ~
真夏かと思うほど気温が上がった6月初め。
記者Oさんから月に1度の指令が届きました。
「今月は、西川田のフィールドさんに伺います」
「前を通るたびに気になってはいたんですよね。ランチがおいしいと友人から聞いたことがあります」
パスタがおいしいと聞いていたので、記者Tの中ではイタリアンレストランのイメージだったフィールドさん。
どんなお店かと、わくわくしながら向かいます。
木立に囲まれた人気店レストラン フィールド
「森の中のレストランみたいですね~!」
栃木街道と環状線が交差した、西川田本町交差点の北、カンセキ西川田店の向かいにフィールドさんはあります。
交通量の多い幹線道路沿いに建っているのですが、緑に埋もれるように入口があって、まるで森の中のレストランのように見えます。
白くて小さい、かわいいお店と思って入るとまた一転。
店内は外からは思いもつかない広さがありました。中には会議にでも使えそうな楕円のテーブル席も。
ふんだんに木が使われたシックな内装。レトロなステレオやピアノがさりげなく置かれて、落ち着く空間です。
「すてきなお店ですね~。お店を始められて、どれくらいになりますか?」
「1983年からですから、32年になります。この内装になってからは27年くらいですか。もともとは喫茶店だったんですよ」
オーナーの小平誠さんがお話ししてくださいました。
「喫茶店のマスターって憧れだったんですよ。
のんびりしてていいなあって。でも自分で店を始めたら、めちゃくちゃ忙しくて、想像と違いましたね」
「ランチタイムも満席でしたね。お客様は、どんな方が多いですか」
「女性が多いですが、男性お1人のお客様もいらっしゃいますよ。ほとんどの方がリピーターですね。
近くの方が多いですし、若い方よりは年配の方が多いです」
「もともとこの広さだったんですか? なにか不思議な広さのお店だなあと思っていたんですが」
「もとは3分の1くらいでした。レストランにするときに広げたんです」
やはり。このお店、童話に出てくるリスやウサギの家にような、穴っぽい形をしているように感じていたのです。
入口が小さくて、奥に広がりがあるからでしょうか。
「どうしてレストランを始められたんですか?」
「喫茶だけだとやっぱり限界があるので、食事をやらないと、と思ったのが初めです。
そのうちメニューが増えて、じゃあレストランにしようか、と」
「和豚もちぶたはいつ頃から使っていらっしゃいますか?」
「10年くらいです。実は壬生の生産者さんと知り合いで、以前からいいとは聞いていたんですが、
豚なんてどれも同じだろうと思ってたんですよ。
それが東京に行ったときに、たまたまトイレを借りに入ったスーパーで、
和豚もちぶたの試食販売をしてたんです。
バラのしゃぶしゃぶだったんですけど、試食して驚きまして。
即、関口肉店さんに連絡を取りました。
自宅でも、豚を食べるときは和豚もちぶたです。しゃぶしゃぶが1番好きですね」
「和豚もちぶたの魅力は何だと思われますか?」
「やっぱり脂が甘くて、臭みがないことでしょう。柔らかいだけなら、他にも柔らかい豚肉はあると思うんですよ。
でもこの脂は、他の肉ではないでしょう」
「こちらで人気の、和豚もちぶたを使ったメニューを教えてください」
「ポークジンジャーやコートレットは、平日の昼で20~30くらい出ます。あとはしょうが焼きや、季節のメニューもあります」
取材でお邪魔した日の季節のメニューは、ポークソテー夏野菜のトマトソースでした。
「同じメニューを、夜は150gのちょっと小さいサイズにして、1000円くらいでお出ししてるんですよ。お試しというか、またランチにも来ていただけるように」
「一般に、ランチを安めにして夜は高めのお店が多いですが、こちらは逆なんですね」
「夜高いと、なかなか来ていただけないですから。お客様の負担にならない値段設定をいつも考えてます。ですから、特に有機野菜を使ったりはしませんが、自分の舌で選んだものをお出ししています」
これは試食も楽しみです。
「ポークジンジャーとコートレット・・・どちらかにしましょうか」
悩む記者2人に、オーナーさんから救いの声が。
「両方お出ししましょうか」
「お願いします!」
オーナーさんのご厚意で、人気メニュー2品を出していただけることになりました♪
とろ~りチーズと和風ソースの
懐かしくもおしゃれなハーモニー和豚もちぶたのコートレット
1品目。コートレットが運ばれてきました。
「おお!見た目のボリュームが・・・すごい!」
「コートレット」とは、一般的には肉の切り身にパン粉をつけてバター焼きにした料理。日本でいう「カツレツ」の語源です。
「大きく見えますが、肩ロースを広げて、チーズをはさんで層にしてあるので、これで180gです」
「チーズの層!?」
「これは熱々のうちにいただかないと!」
ナイフでカット。
とたんに、中からチーズがとろ~りとあふれてきました。
「うわっ、なんかもったいない! チーズが止まりませんよ!」
「パンにつけて食べたいですね」
和豚もちぶたの脂とチーズ、それにガーリックの香るソースの塩気が溶け合って、食が進みます。
「このソースは、ガーリックソースですか?」
「ガーリックと玉ねぎにパイナップルが入ってます。和風ハンバーグもこのソースです」
「しっかりした味付けですね」
「ご飯に合う洋食を目指してますので」
「洋食ですか? イタリアンではなく?」
「もともと洋食が好きなんです。子供の頃、ラーメン屋でオムライスを食べたときに、
『この世にこんなおいしいものがあったのか!』って衝撃を受けて」
「ラーメン屋さんでオムライスですか?」
「出てたんですよ、なぜか。昭和ですから、ご飯をケチャップで炒めて卵を乗せただけのですけどね。
あの頃はどこの店でも、冷凍食品や加工品は使わずに、
近くの八百屋や肉屋で材料を買って、調理してましたよね。
僕はそれをやりたいんです」
今40代以上の人が子供の頃の洋食といえば、洋食屋さんかデパートのレストランで食べるもので、
よそ行きの服を着て出かける、ちょっと特別なものでした。
月に1度も連れて行ってもらえたらすごいような、その特別な感じが、オーナーさんの原点でした。
「この付け合わせは何ですか?」
「野菜はにんじんと、ズッキーニです。それにマッシュポテトです」
「ズッキーニ!? 黄色いズッキーニって初めて見ました!」
「今はいろいろ出てるんですよ。色も大きさも」
「ほくっとした、おもしろい食感ですね」
「マッシュポテトもおいしいですね~。チーズとソースといっしょに食べると、ますますおいしいです~」
厚みのある肉を絶妙な焼き加減で和豚もちぶたのポークジンジャー
懐かしい洋食への思い入れは、
2品目のポークジンジャーが運ばれてきたときに、さらに明らかになりました。
「Oさん!付け合わせがマカロニサラダですよ!」
いちょう切りのにんじんと、つぶしたゆで卵が入った、懐かしいマカロニサラダは、
薄めの味付けのマヨネーズであえてありました。
「マヨネーズもうちで作ってます」
「酸味がない・・・おいしい~」
「記者T、メインはポークジンジャーですよ」
「は、はいっ!」
ポークジンジャーのボリュームもまたすごい!
「これで何gくらいですか?」
「こちらは250gです」
「お客様の反応はどうですか? このボリュームに驚かれませんか?」
「注文した方は、全部召し上がりますよ。リピーターの方が多いですから、わかっていらっしゃるし、食べたいものが決まっていて来店される方が多いですしね」
「それぞれのメニューに熱烈なファンが付いていそうですね」
ステーキのように厚みのある肩ロースは、中心にほんのりピンクを残してやわらかく焼きあがり、和豚もちぶたのおいしさが最大限に引き出されています。
「このジンジャーソースは、甘みがありますね」
「脂身と合いますね~。こっちはパンよりご飯のほうが合いそうですよ」
「私はこっちのほうが好きですね」
「私はコートレットにやられました~。
次に来た時もこれにします!」
記者2人の支持は真っ二つに割れたのでした^^
・・・といいつつも、もちろん本日も完食。ごちそうさまでした!
記者2人とオーナーさんは、昭和の洋食と懐かしいレストランの話で盛り上がり、話が尽きませんでした。
オーナーさんが一番おいしいと思ったのは、
かつて東武百貨店の近くにあった精養軒さんなのだそうです。
それから、大通りにあった福田屋百貨店のレストランで生まれて初めてフォークとナイフを使ったとき、大人になった感じがしたとか、マスキンのレストランがおしゃれだったとか・・・。
記憶に残る昭和の時代は、さまざまな経験ひとつひとつがセレモニーのようで
子供を大人にするのに一役買っていたのかもしれません。