レシピで世界をめぐる旅、今回は再びヨーロッパへ。フランス北部ノルマンディー地方の「豚フィレ肉のシードル煮込み」をご紹介します。
ノルマンディーの秋を感じる本格フレンチ
ノルマンディーは、フランス北西部のイギリス海峡に面した地方で、世界遺産「モン・サン=ミシェル」はこのエリアの南西部に位置します。
その他にも、印象派の画家クロード・モネが少年時代を過ごし、のちに作品「印象、日の出」で描いた港町ル・アーヴルなど、風光明媚な観光地が多く点在します。
この地方ではリンゴや洋ナシなど果実の栽培が盛んで、逆にブドウがほとんど穫れないことから、リンゴから作った発泡酒「シードル」の名産地となりました。
同時に酪農と乳製品づくりが盛んな大酪農地帯でもあるため、リンゴやシードルと乳製品を組み合わせた郷土料理がよく作られます。
なかでも「ポークノルマンディー」は、シードルとクリームで豚肉を煮込んだりソテーにして食べる料理で、この地方の代表的な料理の一つ。「ノルマンディー風」料理と言えばシードルかリンゴ、クリームを使う、とも言えそうなくらい、この地方の食の特徴として定着しているのです。
というわけで今回も料理研究家・臼居芳美先生のキッチンから、秋の本格フレンチ「和豚もちぶたフィレ肉のシードル煮込み」をご紹介します。
材料を準備する旬の食材をふんだんに使って
今回使う和豚もちぶたフィレ肉は、ほぼ丸ごと1本・約650gほど。6~7人分程の分量となります。
フィレ肉は3cmほどの厚めに切り分け、塩コショウをしておきます。端の細くなっている部分は裏側に折り込むようにすると、他の部分と形が揃います。
ちなみに「シードル煮込み」として日本で有名なレシピは、あのフレンチの巨匠・三国シェフのもの。ふつうのシードル煮込みとは一味違うレシピに臼居先生が惚れ込み、今回は和豚もちぶたを使って先生流にアレンジしたものをご紹介いただくことになりました。
その最大のポイントは、ベーコンの使い方にあります。欧米の料理では、旨味を出すための調味料としてベーコンを入れることはよくあるのですが、このレシピではベーコンをしっかりとお肉に巻きつけるところが特徴。
オテル・ドゥ・ミクニ Youtubeチャンネル『フィレ ミニヨン ドゥ ポー』りんごとシードルの香りが最高のソースに!|シェフ三國の簡単レシピ
先生がいろいろな方法を試してきた結果、ベーコンの風味がいちばん上手に引き出せるのがこのレシピだったそう。お肉の形が崩れにくいのもうれしいポイントかもしれません。
今回は、切り分けたお肉の半分だけにベーコンを巻き付け、巻かないものも作って、見た目に変化をつけてみました。
つづいてお肉に小麦粉を薄くまぶします。取っ手付きの粉ふるいを使って、粉砂糖をまぶすように振りかけていくと、薄く均等にまぶすことができます。
一緒に入れるリンゴは皮つきのまま細めの串切りに。しめじの株はほぐしておきます。
シードルと生クリームで煮込むキッチンは秋の香り
粉をまとってお菓子のような姿になったフィレ肉を、オリーブオイルをひいたフライパンに置き、表面に焼き目をつけていきます。コクを足したい場合はバターでもOKです。
ある程度の焼き目がつき油に旨味がたっぷり溶け出したら、お肉はいったん取り出します。
フライパンに残ったオイルでそのままリンゴを炒めます。
リンゴの色が少し変わってきたらしめじを投入。しめじが旨味をしっかりと含んでくれます。ヨーロッパならクッキングアップルとマッシュルームを使うところですが、ここでは日本の「サンつがる」と「ぶなしめじ」。
キッチンには何とも香しい、日本の秋の香りが広がります。
しめじとリンゴに火がとおり、いい香りになってきたら、いよいよシードルを加えます。フランベしてアルコールを飛ばすこともできますが、シードルのアルコール分は低めなので、煮込んでいけば飛んでしまいます。
全体に沸騰してきたら、生クリームを加えます。見た目も香りも、いっきにフレンチの雰囲気に!
生クリームは乳脂肪分が固まっていることがあるので、使い切る場合はパックの底までよく確認すると無駄なく使えます。
あとは中火で煮込むだけ。
コンソメなどの人工的な調味料を一切加えていないのに、立ち上る香りからすでに奥深い旨味を感じます。
途中3分たったところで、お肉を裏返しましょう。
合計5~6分ほど煮込み終えたら、最後に塩コショウでもう一度味を整えてできあがりです。
秋のフルーツサラダ
ここで、つけあわせのサラダを作りましょう。
濃厚なクリームソース料理にあわせるのは、オレンジ色の鮮やかな「マイヤーレモン」と秋の果実をふんだんに使ったフルーツサラダ。塩味だけで仕上げます。
マイヤーレモンとリンゴは皮つきのまま、梨は皮をむいて薄い扇切りに刻みます。
シャインマスカットは一粒ずつ輪切りに。
セロリときゅうりは外皮をむいて斜め切りにすると、まるでフルーツのような顔をしてなじんでくれるので素敵です(笑)
ブラックオリーブを散らしたら塩を振り、全体をざっくりまぜあわせたらできあがり。
日本では考えつかない組み合わせですが、淡い水彩画のような、美しいサラダができあがりました。
豚フィレ肉のシードル煮込みを食す気分はリンゴ農場の収穫祭
豚肉のシードル煮込みが出来上がりました。)
おしゃれな白いお皿に盛り付け、パセリを散らしたシードル煮込みは、まるでディナーコースの一皿。香りも格別で、食べる前からおいしいことがわかっていました(笑
ソースを口にした瞬間、煮込んだリンゴのいい香りが濃厚なクリームの香りとともに広がります。そこへさらに奥行きを加えているのは、シードルとしめじの香り。
和豚もちぶたのフィレ肉は、切り口がほんのりピンク色。フォークだけでも簡単に裂けるほど柔らかく、しっとりとした口当たりです。
フィレ肉の旨味、キノコの香り、リンゴの甘酸っぱい香りがクリームソースでひとつに溶けあう、まさに秋のフレンチの逸品。
調味料といえるものは塩コショウのみ。あとは食材から引き出された旨味だけで、しっかりと一つの味が構成されています。
そして日本ならではの主食として用意していただいたのは「玄米ピラフ」。ブイヨンと塩コショウ・オリーブオイルを入れてゆっくり炊いた玄米ご飯です。
アクセントには砕いたピーカンナッツ。
歯ごたえが心地よい玄米ピラフはパラパラと香ばしく、濃厚なクリームソースには相性抜群。日本人にはうれしい組み合わせです。
スタッフも先生も、しばしマジ食い。
静かな時間が流れていました(笑)
作っているときには全く味をイメージできなかったフルーツサラダは、まさに「組み合わせの妙」といってもいいくらいの絶品。
マイヤーレモンの軽い酸味とセロリの香りが、見えないドレッシングの役割をするのでしょうか。それぞれが本来の味のまま、全体としてはサラダとしてまとまっています。
先生曰く、マイヤーレモンを生のすだちかカボスに変えても、また違う感動が味わえるとか。ぜひ一度お試しくださいね。
そして、満を持してオーブンから登場したのは、もうひとつの付け合わせ「焼きラタトゥイユ」。北フランスのノルマンディー料理に、南フランスのつけあわせとは豪華です^^
トマトと、薄い輪切りのズッキーニ・ナスを耐熱皿に綺麗に並べ、プロヴァンス・ハーブとブイヨン・オリーブオイルをかけてオーブンで焼いたもの。
煮込んでいない分、素材の味がダイレクトにわかるあっさりとした味わい。濃厚なクリームソース料理にはうってつけの箸休め(?)です。
いかがでしたか?
今回は、旬のリンゴをフューチャーしたノルマンディーの郷土料理をご紹介しました。
肉と果物を使ったレシピは日本ではあまり見かけませんが、欧米ではごくあたりまえの組み合わせ。とくにリンゴと豚肉の相性は栄養的にもベストなのです。
本場ノルマンディーでも、シードルと組み合わせるのは豚肉が中心とか。
また、ワインとは別の「リンゴ文化」が根づくヨーロッパでは、リンゴは生活や信仰とも切り離せない特別な果物。日々の料理に取り入れて最大限に楽しむのは自然なことなのかもしれません。
ノルマンディーのリンゴ農場では、ちょうどこの時期(10月)が収穫の最盛期。
通常なら収穫祭の季節です。
収穫したリンゴを摘んだトラクターが行きかい、街中の人々が集ってリンゴの香りに包まれる、にぎやかな収穫祭の光景を、今は頭の中だけでも旅してみたい気分です。
分量のおさらい
豚フィレ肉のシードル煮込み(6人分)
写真では6~7人分で調理しています
- 豚ヒレ肉・・・・250g
- ベーコン・・・・3枚
- しめじ・・・・・1株
- リンゴ・・・・・1個
- シードル・・・・150cc
- 生クリーム・・・200cc
- 塩コショウ・・・適量
- 小麦粉・・・・・適量
- オリーブオイル・適量
秋のフルーツサラダ
- リンゴ・・・・・1個
- 梨・・・・・・・1個
- セロリ・・・・・1/2本
- きゅうり・・・・1本
- 柑橘類・・・・・1個(レモン・みかん・すだち等)
- 塩・・・・・・・小さじ1/2
- オリーブまたはケイパーはお好みでトッピングしてください。